されどドレス・コード

2020.09.24 Thursday

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    前防衛大臣は、日本人記者の意味不明な質問にズバッと正論で切り返すなど、歴代大臣の中でも際立って痛快、多くの国民や隊員に支持されたものと拝察します。また、意欲的に部隊を訪問・視察され、部隊の士気は大いに高揚したことでしょう。在任中、とても良い仕事をされた。長年この組織に籍を置いた一員として、大変嬉しく思います。

     

    前大臣が部隊を視察された時の模様が、防衛省の SNS などで度々公開されておりました。公式の公開に加えて、ご本人も積極的に発信しておられます。その映像(写真)を拝見して、old sailor は「あれ???」と思ったことが一点あります。部隊が実施する栄誉礼を、かなりカジュアルな服装で受けておられること。10年も前に現役を退いた老兵が、いちいち目くじらを立てることではないのかもしれないのですが・・・。些末と言えば些末、重要と言えば重要なことであり、一筆啓上致したく。

     

    当然のことですが、出迎える部隊の儀仗隊(員)は正装です。儀仗隊の構成員に選ばれた隊員は大変名誉なことと緊張し、何日も前から事前訓練や予行を行って本番に臨んだことでしょう。堂々と公開されておりますので、「軽装」で儀仗を受けることは規則上、何ら問題ないのだと思います。しかし私は性格が歪んでいるためか、軽装でいいのであれば、極端な話「ミニスカートや半ズボンでもいいのか」と思う。栄誉礼や儀仗は、公式に訪日する外国の国家元首などに対しても行います。これは諸外国においても同じで、国際慣習、国際常識のひとつです。軍隊が行う多々ある礼式のなかでも、栄誉礼は特に格式が高い儀礼として位置づけられております。

    ですから、正式に栄誉礼を受けるのであれば、更には閲兵(巡閲)するのであれば、しかるべき服装でなされるべきではないのか。防衛大臣は指揮系統上、最高指揮官(内閣総理大臣)に次ぐ指揮官であり、隊員は一人の例外なく、大臣の命(めい)あれば「身をもって責務の完遂に務める」と宣誓します。命令は重く、またこの宣誓も重い。であるが故に、隊員は正装(礼装)をもって遇します。一方で大臣に合わせているのでしょうか、儀仗隊員の他は部隊指揮官を含め、略衣(半袖)や戦闘服装であることにも違和感を持ちます。「時代が違うんですよ、アッタマかて〜なぁ」と言われば、そうかもしれません。

     

    防衛省に来られた政治家さんで、強く私の印象に残っている方がお二方おられます。特別交流があったわけではありませんが、僭越な言い方をするとウマが合った方です。

    おひとりの場合、防衛省を離れた後にお会いした時、次のようにおっしゃいました。「離任の際に栄誉礼があるのは承知していなかった。栄誉礼があると分かっていたら、家内を呼んだのだが・・・。妻には今まで、選挙などでとても苦労をさせてきたので、あれは是非とも見せたかった」。そう聞いて私は、本当に申し訳ないと思いました。秘書官や副官は、どんなに忙しくても(離任)行事の細部について事前に説明したでしょう。先生が聞き間違ったか、或いは「離任の場合には、巡閲(儀仗隊を点検する)はありません」とか何かを、勘違いされたのかもしれません。しかし、現実に彼は知らなかったわけで、奥さんに見せてあげることも叶わなかった。(彼にとっては)一世一代の晴れ姿を夫人に見せる機会を逸し、とても残念がっておられました。おそらくは、着任の時の栄誉礼も見せておられないのでしょう。二人三脚で苦労してこられた奥さんも、さぞ見たかったと思う。彼の気持ちがよく分かります。

     

    もう一方(ひとかた)、温和ななかに信念のある先生でした。或る省内会議の場でたまたま隣の席になったのですが、夏でもネクタイをしている理由を尋ねた私に、彼は次のように応じました。「国会は我々にとって職場であり戦場です。ですから、どんなに暑い日でも、国会に入る時には必ずネクタイを(着用)します。みなさん(自衛官)が制服を着るのと同じです。私にとっては背広とネクタイが制服です」。若いのにしっかりした方だと感心しました。制服とはいえ、半袖の略衣である此方が恥ずかしくなりました。

     

    過去のブログでも描いた記憶がありますが、新たに着任された防衛大臣が横須賀を視察(着任後の初度巡視)された時、大臣は行事に相応しいシックな服装でした。初の女性防衛大臣としての意気込みが強く感じられ、また流石にTPOをわきまえておられると感心したものです。一方で随行の取り巻き(官僚)はクール・ビズだった。中にはジャケットを持参していない者さえいました。受け入れ側の我々は、司令官も総監も隊員も残暑厳しい最中、総員が詰襟の制服に白手袋でお迎えしました。どんなに汗をかいても、それが上級指揮官に対する礼式であり、常識だと思っているから何の不満もありません。人間が考える常識など、時代とともに変化していいと思う。しかし、守り維持していく常識もあると思う。それが伝統になり、ひいては組織の力に繋がります。

     

    バーバリーのジャケット / パンツであろうと、ウン十万・ウン百万(円)の服を纏ってもカジュアルはカジュアルです。時と場によっては、吊るしの背広・ネクタイに及ばない。ドレス・コードは、お金(値段)ではないと言うことです。先の部隊訪問(視察)に関し、如何なる位置づけの視察であったのか、中央(市ヶ谷)と地方でどのような事前の調整がなされたのかは知りません。もし私が受け入れ部隊の指揮官であれば、「軽装なら栄誉礼はご遠慮いただきたい」。或いは、「少なくとも栄誉礼の時には、背広にネクタイでお願いしたい。(大臣がカジュアルでは)部下に示しがつきません」と意見具申する。間違いなく・・・多分・・・もしかしたら・・・よう言わんかな。

     

    近年、クール・ビズには随分お世話になっています。最近では、ネクタイをするのは年に数回しかありません。ネクタイをして行く場がありません。ネクタイしてトラクターを操縦してると、「この暑さで頭やられたか?」とカラスに笑われます。ですから偉そうなことは言えないのですが、クール・ビズが普及したことによって、日本人の服装はちょっとだらしなくなったと思う。「クール」を必要としない時季であってもクール・ビズに便乗する、私のような横着な日本人が増えたような気がします。

     

    主題のドレス・コードとは全く関係ありませんが、報道によれば、前大臣は離任に際して「戦闘機1機、戦車1台、護衛艦1隻なくても、人材が生き生きと活躍できる環境の方が大事」と述べられた由。人(隊員)を大切にする、大臣のお人柄がよく顕れている言葉だと思います。装備を例えに出してはおりますが、その真意が自衛隊員の処遇や環境の改善にあることは間違いないでしょう。

    しかし・・・です。一国の国防を担う最高司令官の言葉としては如何なものでしょうか。F35とトイレット・ペーパーの例えもそうですが、ちょっと違うんじゃないの、と私は思う。重箱の隅をつつくように、言葉尻を摑まえるわけではないのですが、主要な装備と処遇改善を並べて「こっちを優先」という言い方には疑問符(?)が付きます。

    国家防衛において、いずれもが重要課題であることは論を待ちません。しかし、隊員の処遇改善を図ると言うときに、その比較において、わざわざ陸海空自衛隊の主要装備(戦車、護衛艦及び戦闘機)を持ち出す必要はない。国民受けする表現であり、主旨を強調することには寄与しますが、逆にその真意や効果を減じることにもなりかねません。或いは、外に向かっては間違ったメッセージの発信になる可能性もあります。勿論、予算には限りがあるので、予算要求・予算編成の議論の中で人と装備の関係(福利厚生などを含む人件費と正面装備費)が出てくるのは必定です。時には両者の間にバーターがあるかもしれない。小生も人事に関わった経験がありますが、それはそれで議論し、淡々と進めていけばいいことです。

    更に敢えて付言すれば、この装備と並べて語る処遇改善は、お金(予算)にフォーカスした施策の問題です。それも重要ですが、そこには自衛官の「誇り」や「名誉」という視点が見当たりません。給料や生活環境の改善を図るとともに、司令官から末端の隊員までが誇りを持って任務に就く、後顧の憂いなく職務に邁進できる環境の整備にも腐心して貰いたいと思う。

    在任期間を通じて素晴らしい仕事をされた方だけに、残念な最後の挨拶であったと私は感じました。以上は Old Sailor の率直な感想ですが、現役諸官がどう受け止めたか訊いてみたいものです。因みに、着任の時には「訓示」、離任の言葉は「挨拶」です。

     

    国防大臣の発言や行動は、その国の防衛・安全に直結します。防衛大臣の言葉は、在京各国武官によってそれぞれの母国語に翻訳され、世界中に発信(報告)されたでしょう。アジア・太平洋の安全保障が揺れている今日、(経済)大国日本の国防大臣の発言、列国はみな興味津々で観ていますよ。

     

    新大臣とは、かつて省でご一緒したことがあります。もの静かで凛とした方です。ご活躍を期待しております。

     

    【眦菁郢襪離フィシャル・サイト】

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