真空地帯

2019.04.25 Thursday

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    今時「非武装中立」など信じる人は皆無、とは言いませんが殆どいないと思います。しかし、戦後の何十年かに亘ってかかる美しい言葉(絵空事)がこの国を席巻しておりました。非武装信者にとって自衛隊は、勿論憲法違反であり平和を阻害する要因でありました。との認識だったはずです。ですがその信者さん代表は、この国のかじ取りを任された途端に「自衛隊容認」に大きく舵を切りました。我々船乗りで言えば、「取り舵(左回頭)一杯」だったのを、一気に「舵中央」にしたようなものです。この時彼(彼女)らが大きく舵を(相対的に右に)切ったのは、或る意味仕方ないことですよね。そうしなければ、現実の問題としてこの国が生きていくことはできないし、国家としての体をなさない訳ですから。流石に「自衛隊は違憲」とは言えなかったわけです。

    この辺りから、いかな能天気な日本人も「ちょっとなんか違うんじゃない?」と思いだしたんだよね。そして非武装中立なる理論(?)は、今日では風前の灯火です。それでも自称平和主義者の間には、今なお残滓(この「神話」の信者)があるようです。神話という表現は神様に失礼ですね。言いたいのは、非武装中立なる考え方は、謂わば「神がかった信仰」だと言うことです。まさに他力本願。どこやらの国の憲法前文にあります。「・・・平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して・・・」。能書きとしては誠に美しい。でも、世界中の全ての国の信義を信じることで自国の安全を確保することができれば、これほど安易かつ安上がりな国防政策はありません。戸締りも鍵も保険も、な〜んも要らんわけですから。年間で5兆円が浮きます。この保険代5兆円を高いと思うか安いと感じるか? ですね。

     

    のっけからきつめのジャブを入れましたが、安全保障において、そして国際政治において最も危ない状況・情勢は「力の空白」です。国際情勢は空気みたいなもので、良いにつけ悪いにつけ各国・地域の力が均衡して平和が保たれています。この「ちから」は、必ずしも武力=軍事力だけを指すものではありません。国で言えば国力です。その国のトータル・パワーですね。パワー・バランスの典型的な例が米ソの冷戦構造でした。核戦力をはじめ、アメリカとソ連の力が均衡して世界の平和、とは言えないかもしれませんが、とにかくカッチリとした世界の安定が維持されていた。勿論、その安定の陰には虐げられている多くの国や人々がいたことは間違いありません。時は流れ、一方の大国であったソビエト連邦は、アメリカとの軍拡競争に敗北して疲弊し崩壊してしまいました。

    話は少し横道にそれますが、昭和62年(1987)、当時市ヶ谷にあった海上自衛隊幹部学校で、我々学生は二十年後の海上自衛隊の在り方について議論しておりました。学生も教官もそして招へいする多くの講師(与野党の政治家さんを含む)も、誰一人としてソ連の崩壊を予見する人はいませんでした。と言えば嘘になります。実は只一人、防衛研修所(当時)の或る女性教官だけが、時期は明示しなかったですが「早晩ソ連は崩壊する」と言い切ったですね。それなりの人でソ連の崩壊を予見したのは、私が知る限りではこの方だけです。彼女はソ連研究の専門家でしたが、今思えば素晴らしい研究者であり学者でした。勿論、私を含め生意気盛りの学生(学生の殆どが3佐=少佐)は、彼女の説を「そんなアホな〜」と誰も信じなかった。そして毎日、冷戦情勢下での海上自衛隊の将来像や、在るべき姿について口角泡を飛ばし議論してました。憲法問題もそうでした。

    全く時代が読めてなかった。回顧して、誠に恥ずかしく思います。

     

    この2〜3年後に東西の冷戦は終焉を迎え、ソ連は無くなりました。ソ連の支配下・影響下にあった多くの国や人々は、ソ連の軛(くびき)から解放されて独自路線を歩み始めます。その多くは、欧州(ヨーロッパ)への回帰を図った。東欧やバルトの人たちはみんな、自分たちはヨーロッパ人だと思っています。そして、いよいよ平和な日々が来ると思っていた。しかし平和の配当を得たのは、長い人類の歴史で観れば瞬時です。欧州は西欧と言う受け皿があったのでまぁ良かったのですが、アジアにはそんなものはありません。或る国は歴史を読み違えましたね。国内に駐留していた米軍に「(ソ連の脅威がなくなったので)もう基地は貸さない(=出て行け)」と決定した。そう言われた米軍も「あっそう」と撤退してしまいました。アメリカも早計だったと思います。さてその後、その国や地域の情勢はどうなった? 簡単に言えば、瞬く間に一部の領域が隣の大国に飲み込まれました。何年か後に自らの誤りに気付いて米軍に秋波を送ってましたが、米海軍の友人は「某海軍は腐ってる」と言ってました。決して他人ごとではありません。平和に慣れた軍隊は腐ります。しかも早いです。艦艇は3か月間港に停泊したままだと、艦底にはフジツボが付着し戦士(戦闘員)の心も腐ります。

    冷戦の終焉に湧き、あの時日米両政府が同じ決断をしていたならば、今日では我々も同じ状況、即ちとても悲惨な状況になってるはずです。我々は時の為政者と、この国の地勢に救われました。一例として挙げましたが、「力の空白」というのはそういうことです。

     

    小さな村も世界も同じです。平和と安定が保たれるためには、必要悪かもしれませんが「ちから」が不可欠です。「ちから」は空気なのです。世界の空間は、「ちから(主として軍事力)」という空気によって満たされ、釣り合いが取れています。だから、一つの大きな塊で「ちから」が崩壊する(なくなる)と、そこにポッカリと真空地帯ができます。安全保障上、その時が最も危ない状態です。冷戦時の太平洋の海洋戦力は、米第七艦隊+海上自衛隊=ソ連太平洋艦隊という構図で、或る意味安定が保たれていました。ところがソ連の崩壊によって、一方の雄であるソ連(ロシア)の艦隊は「死に体」になった。ここに「ちからの空白」が生じた訳です。するとどうなる? 算数も国際情勢も1+1=0はあり得ません。ゼロ(真空)を埋めるが如く、他の力が急速に台頭します。それが歴史の必然なのです。

    因みに、ロシア(旧ソ連)艦隊が「死に体」状態に陥った時にも、彼らは腐っても鯛だと思っていました。今もその考えは変わりません。決して侮ってはいけないということです。いずれ大艦隊に復活します。今我々が南の方だけにフォーカスしてたら、足をすくわれることになります。その時の太平洋の力学は、大きくは第七艦隊+海上自衛隊⇔中国海軍⇔ロシア太平洋艦隊の三つ巴になる。これに豪州や台湾、その他アジアの国々の海軍が関わってくる。そして、もはや時代の力学は太平洋のみで完結することなく、太平洋+印度洋の海洋戦力が世界の趨勢を大きく左右することになります。すれば、ヨーロッパ諸国の海軍も出てくる。さ〜どうする?

     

    国際安全保障におけるキーワードは、自らが力の空白にならないこと、そして真空地帯を醸成しない(作り出さない)ことです。現下の大きな争点である憲法の問題、沖縄の問題は、このような視点からも考察し議論する必要があります。太平洋・印度洋海洋戦力の各プレイヤーは日本の動きを注視しているでしょう。何のために? 

    各国が最も重視しているのは、それぞれの「国益」であることに疑いの余地はありません。北や南の島を含め、百年後二百年後の日本地図はどうなっているのだろうか?  

     

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    博海堂

     

    追伸 グダグダ言ってるうちに、67(歳)になってしもうた(笑)。笑っとる場合じゃないってか・・・。

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

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