年賀状再考
2016.12.29 Thursday
この季節になると、いつも頭を悩ませることがあります。ズバリ「お歳暮」と「年賀状」です。
恥ずかしながら、お歳暮と年賀状の原点については知りません。端的に言うと、師走の風物詩である「お歳暮」「年賀状」「紅白歌合戦」の三点セットは、既にその役割を終えたと思っています。原点を知らずに言うのもなんなのですが、お歳暮と年賀状が多分に形骸化してきたことも、そう思う要因のひとつです。形骸化というのは、本来の趣旨や「こころ」が希薄になり、形だけ、もっと言えば半ばノルマ状態になっているという意味です。
まず、お歳暮からいきましょうか。
長いあいだ所属した組織(海上自衛隊)では、私が若い頃に「虚礼廃止」の通達が出て、現役間での年賀状交換も控えるようになりました。と、記憶しています。元々、我々にはお歳暮やお中元など、贈答(品悪く言うと付け届け)の文化はありませんでした。他のサービス(陸上・航空)については知りません。そんな様子ですから、およそ40年間勤務して、上司に付け届けをしたことはありませんし、部下からもらったこともありません。とても過ごしやすい、いい文化だったと思います。届けものをしても、なんの効果もないばかりか、むしろ「くだらんことして」と思わるのが落ちです。帝國海軍からの、清廉な文化がそうさせるのだと思います。でもこのような文化は、我々の世界でこそ通用しますが、一般社会の通念・常識には反するようです。
郷里(讃岐の片田舎)では、世代が交代してだいぶ様子が変わりましたが、それでも昔からの盆正月の贈答習慣は色濃く残っています。都会に住んでいる若い方には、失礼を承知で「もうやめませんか」と率直に言わせていただくのですが、さすがに郷里の親戚全体を敵に回す勇気はありません。人間てやつは弱いもので、いつまで経っても「いい子」でいたいのです。とりわけ義に厚かった両親の顔に泥を塗ってはいけない、という気持ちもあります。
いえ、決して贈答が嫌いなわけではないのです。自分で言うのも変ですが、どちらかといえばむしろ、「おもてなし」については律儀な方だと思います。現在では、お世話になる方・お世話になった方には拙著や菓子折りを持参しますし、現役の時には拙宅や官舎に多くの方をお招きしました。当然のことながら、全て自己負担です。なのですが、盆正月になると決まって「お中元」「お歳暮」という、のし付きで贈り・贈られることに抵抗があります。私はむしろ「その都度のお礼」を重視します。格好よく言えば、「しきたり」よりも「こころ」です。
年賀状〜誠に悩ましい。処理という言葉が適切かどうかは分かりませんが、作成するのが師走という、年間で最も気ぜわしい時期であることが、負担感を助長します。そう、私は多分に面倒くさがり屋です。
近年、年配の方からの年賀状、特に郷里に住むひとからの年賀状は両面印刷が多い。印刷しただけのもの。高齢になって、もう一筆啓上する気力が湧いてこないのだと思います。私の両親もそうでしたが、おそらく孫か誰かに頼んで作ってもらう、あるいはしかるべきところで印刷してもらうのでしょう。そうなると、年賀状の役割は生存確認だけ。「ああ お元気なんだ」。他界されたことを知らずに出すと、ご遺族の方から「〇〇に他界しました」などと返書をいただくこともあります。一時「メル友」という言葉がありましたが「賀友」もいます。既にお顔もはっきりしないのですが、年賀状交換だけのお付き合いです。
毎年5百枚は出すという方が言っておられました。「葉書代をケチっていると思われたくない」。そういう問題でもないような気がするのですが・・・。因みに、米軍高官などのクリスマス・カードも、カラスを飛ばしたような、書きなぐったサインだけで無味乾燥なものがあります。心の狭い私は、失礼ながら、無理して送ってくれんでもええのに〜と思います。訊いたことはありませんが、彼らは千通くらい送るんじゃないかな。
私と同じように、お歳暮や年賀状を「正直面倒」と思っている人は、多くおられるのではないでしょうか。親からしてこんな体たらくですから、出来の悪い息子らは一枚も出しません。これほど通信が発達して、SNS(facebookやlineなど)で常時繋がっている、あるいは希望すれば瞬時に繋がる環境下で、年賀状はかったるいと思う。時間と経費を伴う年賀状に、その価値を見いだせないのだと思います。恥ずかしながら、60代半ばの私も彼らに与します。
習慣は時代とともに変わっていっていい。また、放っておいても、あるいはどんなに抵抗しても、自然に変わっていきます。年賀状は、現在の在り方(やり方)であれば、40〜50年のうちには消滅すると思う。お歳暮は、もっと早い時期になくなるんじゃないかな。でも、ご心配には及びません。いいものは生き残ります。今は風前の灯でも、やがて形を変えて復活します。勿論、関係者の戦略や努力もあるでしょう。
世知辛い今日、せめてお歳暮や年賀状は続けるべきだ、とおっしゃる方にお聞きします。あなたは「お中元」も「暑中見舞い」もされますか?盆正月の義理を欠かさない人は偉いと思う。でも、冬はやるけど夏(盆)はやらないという方は、それはなぜ?
とブツブツ言いながら、病み上がりの鼻をすすりながら、年賀状作成にパソコンと格闘している自分がいます。
信念がないことこの上ないのですが、PCの腕は多少あがりそうです(笑)
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博海堂